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2011年7月11日   野球肩と野球肘の予防と治療 ~障害をなくし才能を開花させるために~

今年、沖縄には多くのプロ野球チームがキャンプをしました。どのキャンプ地も熱気に包まれて、子供たちだけでなく大人も一緒になって憧れの眼差しでプロのプレーに見入っていました。2011年には、あの巨人軍も沖縄でキャンプをすることが決まり、ますます野球熱が高まりそうです。いつの日か沖縄でプロ野球の公式戦が開催され、沖縄出身のプロ野球選手が活躍する時が来るでしょう。プロの野球選手になるためには、青少年の時期に重大な障害を起こさない事が大事です。

さて、野球肩・野球肘とは一体何でしょうか?
成長期にボールを投げすぎることによって起こる肩・肘の障害のことを野球肩・野球肘と呼びます(図1)。その症状の特徴は、投球時や投球後に肩や肘が痛くなり、肩や肘の動きが悪くなります。
では、野球肩・野球肘が起こると何が困るのでしょうか?
まず、疼痛があるため関節の動きの制限を生じます。この時点でベストパフォーマンスができなくなります。さらに野球を続けると、痛みを避けるため肩・肘以外の箇所に負担が生じてきます。パフォーマンスが低下すると次第に野球に対するモチベーション(意欲)が低くなり野球をやめてしまうかもしれません。しかし、最も怖いのは痛みを我慢して野球を続けてしまい、最終的に重度の後遺症を残してしまうことです。
ところで、野球肩・野球肘はなぜおこるのでしょうか?
野球肩の発生は15、16歳がピーク で、野球肘の発生は11、12歳がピークです。その理由として、大人と子供の骨格の違いに原因があります。子供は成長線など軟骨が多く、それらは強度が弱いという特徴があり、投球時にこの強度の弱い軟骨にストレスが集中すると障害が生じます。体が大きくて筋力のある子供でさえも、骨格はまだ完全に大人になりきれていないのです。
もし、野球肩・野球肘が生じてしまったら、どうしたら良いのでしょうか?
まず、投球を禁止します。損傷部位の修復には安静が必要なためです。時には、バッティングも禁止することもあります。しかし、ある一定期間投球を禁止しなければ野球肩・野球肘は絶対に治りません。
では、野球肩・野球肘は「休めば治る。」で治療は終わりなのでしょうか?
野球肩・野球肘のスポーツ障害は、頻回なストレスによる損傷が慢性化し生じます。よって、その原因を除去しない限り繰り返し障害を生じます。
一体、野球肩・野球肘を起こす原因は何でしょうか?
投球フォームと投球数があげられます。まず、過剰に肩・肘に負担のかかるいわゆる悪い投球フォームです。過剰な負担をかけないようにするため「肘を下げず、体より前方でボールリリースする」理想的なボールリリースポイントを習得することが必要です。この理想的なボールリリースポイントとは、肩関節に最も負担のすくない姿位で「ゼロポジション」といいます(図2)。ゼロポジションは、掌で頭の後ろを触る姿位で再現できます。この位置からボールを放すまでの肘の使い方は、肘関節の外反ストレスを軽減させるために肘を折りたたみ、ボールリリース時に肩→肘→手関節が一直線になるようにして腕を振るようにします。さらに肩・肘に負担がすくなくなるように投げるためには、足を上げるワインドアップフェイズから下肢→体幹→上肢へとスムースな運動連鎖である理想的な投球フォームを身につけなければなりません(図3)。
もし、下肢・体幹での運動連鎖が崩れると、パフォーマンスを低下させないために肩・肘の上肢に代償が生じます。
また、筋の持久力には限界があり、投球数が多くなると上肢の筋肉が疲労し肘が下がってきます。この状態で投球を続けた場合、肘を上げるために上体を傾けて肘を上げようとするため投球フォームは崩れてしまい、肩・肘にかかる負担は一層増します。よって、理想的なフォームを身に付けても投球数が多すぎると肩や肘に障害を起こすことから、障害を防ぐために投球数を制限することが必要となります(表1)。
診察をうけるタイミングとは?
投球時に痛みがあり、投げるたびにひどくなる。関節の動きに制限が見られる。投球時に肘が下がるなど以前のフォームと異なってくる。これらの場合には、専門医の診察を受けた方が良いでしょう。野球における肘・肩の障害は、将来重度の後遺症を引き起こす可能性があります。障害を残してしまった選手は、より高度なレベルに達しきれず、プロで開花しないことになるでしょう。
 
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図1. 野球肩・野球肘(日本手の外科学会・エーザイ株式会社のパンフレットより)
 
 
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図2. 肩関節に最も負担のすくない姿位「ゼロポジション」
 
 
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図3. 投球フォームの運動連鎖 (岩堀, MB Orthop, 2007)
 
 
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